(つづき) エレベーターで,下の階に降りる. 実は,昼間,チケットセンターの外に出て,電話のかけ方を警官に聞いた時に,近くにいいホテルがあるかと聞いたら,「***ホテルがいい」と言われていたのだ.値段を聞くと 「1000ペソくらい(1ペソ=約2.6円)」 と言われた,と記憶していた.この国のホテル代の相場がわからないが,そんなに高くはない.
エレベーターを降りて,すぐ傍にいた人に, 「どこからタクシー乗ればいいの?」 と聞くと,向こうにタクシーを読んでくれる場所があるとのこと. そこに行ったら,タクシーだけでなく,ホテルの紹介もしてくれるコーナーがあることに気づいた. B航空の受付のお姉さんが言ったインフォメーションセンターとは,B航空のインフォメーションセンターのことで,空港のソレのことではなかったらしい. (くそっ,ちゃんと教えてくれよ) いや,今は,済んだことで誰かを責めている場合ではない,ホテルを探すのだ.係りの人に,その旨伝えると,地図を出して***ホテルらしき場所を指差し, 「ここでいいか?」 と聞いてくる. 「いい」 と言うと,彼は, 「そこに座って待っていて.タクシーが間もなく来るから」 何かそのようなことを言って,どこかに電話をかける. 言われた通り,近くの椅子に座って待っていると,先ほどの彼が近付いてきた. 「タクシーが来ました」 そういって,僕の荷物を持って外に出ていく. タクシーの値段が気になったので 「タクシーはいくらですか?」 と聞いたが,先を行く彼には聞こえないのか,何も答えない. 出口のそばにはすでにタクシーが止まっており,そのままアタフタとタクシーに乗り込む. 乗り込むやいなやドライバーは自分の名刺を渡してきた. 名刺の上の,ものすごい愛想笑いを浮かべた彼の写真を見ていると,彼は「自分は“ツアーコンダクター”である」と言ってくる. 「どこから来ましたか?」 と聞いてきたので 「日本」 と答えると 「どこに行きます? 女?」 ・・・いきなりそれかよ. (当時は不快に思ったが,今冷静に考えると,日本から来た男で,そういったお店に行く人が多いから聞いてきた,とも考えられる) 「ノーノー,すぐにホテルへ向かって」 すると彼は意外なことをいってきた. 「どこのホテルがいいの?」 「え,あの男(さっきのカウンターの人)から聞いてないの?」 「いや」 (じゃあ,彼はどこに電話していたの?) 彼は,ホテルに空きがあるかチェックしていただけなのかもしれない.タクシー待合場所だから,外に空タクシーが入ってきたのを見て僕を案内しただけなのだろうか? 困ったことに,カウンターの彼に要件を伝えて安心したためか,そのホテルの名前が,急に思い出せなくなった. (たしか,こんなんだったような…) ホテルの名前を,似たような単語を組み替えて,適当に何回か言っていると,ドライバーは合点が行ったらしく,急に向きを変えて進路変更した. 行き先が決まったら,値段を聞かなきゃいけない.というのは,そのタクシーにはメーターがなかったのだ.別のアジアの国で,メーターのないタクシーに乗った場合は,必ず出発前に値段交渉が必要だったことを思い出した. 「いくら払えばいいの?」 と聞くと, 「3000ペソくらい」 えー,まじかよ! 「ノー,それは高すぎると思う」 だがよく聞くと,それはホテルの値段だったらしい. では,タクシーの料金は? と,聞く前にタクシーはホテルに着いた.それほど近かったのだ. 「いくら?」 と聞くと 「…400ペソ」 (ほう,さっきよりだいぶ安い.え,でも・・・1ペソたしか・・・) 高いと思ったのだが,僕はマニラのタクシー代の相場が全く分からなかった.それに,すごく消耗していたし,払えない値段じゃないので僕はそのまま,400ペソを払ってしまった. でも,それはかなり相場より高い値段だったのはすぐわかった. 「明日はいつごろホテルを出ますか?」 「(午後1時30分発だから)9時くらいかな?」 「分りました,その時間に迎えに来ますよ」 それは,「いいカモを見つけた,もう一回巻き上げてやれ」と言っているように聞こえた. (明日は8時に出発しよう)
僕は心に決めた. ホテルに入る. 女性がチェックインカウンターに立っている. 「一晩泊まりたい」 と言うと,彼女はカウンターの上のホテル代を示すボードを見せながら 「2800ペソです,いいですか?」 いいもなにも,僕はもう他へ行く気力はない.昼間おまわりさんから聞いた値段よりだいぶ高かったが,たぶん僕が聞き間違えたのだろう. 「クレジットでいい?」 というと,2回サインを求められた. フィリピンに来る前に,ネットで得ていた情報に (倍支払わせるために,二回サインを求められることがあるので注意) というのがあったのを思い出した僕は, 「どうして2回サインする必要あるの?」 と聞くと,バンク用と別の用(こっちは聞き取れなかった,店の控え?)で2枚必要とのことだった. (でも,イロイロのホテルではサインは一回しか求められなかったけど) しかし,ゴネて泊まれなくなることを恐れて,僕は彼女を信用した. (→後日領収書をチェックしたが二重取りされてはいなかった) さて,部屋に移った僕は,家族に電話をするために,昼間買ったテレフォンカードを探した.今夜はマニラに泊まること,帰国が1日遅れることを伝えるためだ. しかし見つからなかった. 昼間,旅行会社にかけた時,動転していた僕は多分,カードを電話に挿したままチケットセンターに向かってしまったのだろう. 地階のカウンターに降りて,テレフォンカードを買う. その時僕は気づいた. 先ほどのホテル代のボードには,二種類の値段が書いてあることに
Standard 2400ペソ Superior(より上) 2800ペソ
つまり僕は,部屋に二種類あることを説明されることなく,スペリオールに宿泊させられていたのだ. 「スタンダードは空いてないの?」 と聞くと,彼女は首を振った. ほんとかなあと思ったが,土曜日の夜9時で,空港から近いホテルなのである.安い部屋がすべて埋まっていてもおかしくはない.
さて,家族に電話した後,朝からずっと何も食べていなかった僕は,ホテル地階のケンタッキーで食事をした. セットメニューで67ペソ.安い! しかも席に座る時,僕がうっかりジュースをこぼすと,すぐにただで別のと取り換えてくれた. タクシーとホテル代の件で,疑り深くなっていた僕のハートに,人の優しさが身にしみる. お腹が膨れると,長時間に及ぶ緊張から解放されて眠くなってきた.部屋に戻ってシャワーを浴びると,僕は上半身裸のまま,バタンとベッドに横になった.
が,夜中ごろ,体の上を何かが歩いているのを感じて,その正体を調べるために,僕は空調の傍の電気スタンドに近づいた.電気をつける直前,腕を伝っていたそれが,窓の桟に落ちるのを見た. 電気をつけると,果たしてそれは,触覚の長い,茶色い色をした2.5cm位の昆虫だった.僕が知りうる限り,それはGに見えた.シャイなそれは,すぐに空調の隙間に隠れて見えなくなってしまう. (ここ,スぺリオールじゃなかったっけ?) 日本のちょっとしたビジネスホテルより高いのに,それはないだろうと思ったが,フィリピンにはどんなGがいるか知らないので,あれが本当にGだったのか,今となっては,なんとも言えない.ただの羽虫だったのかもしれない.
次の日. 朝7時に僕は朝食をとりに一階のレストランに行った.8時にホテルをチェックアウトするためである. レストランには僕以外にすでに人がいた. 一組の家族づれと,一組のカップル. (え,それだけ?) スタンダードルームは一杯だったはずでは? ここで僕は,いくつかの作業仮説を立ててみた.
仮設1.朝早すぎた. みんなまだ寝ている時間だったので,レストランは空いていた. →ちなみに8時にチェックアウトした時にも,レストランはガラガラだった. →ほとんどの人が,朝食代を浮かすためにレストランに来なかったということもないと思う.なぜなら,ホテル代には朝食代も含まれていたから.しかし,スペリオールにのみ,朝食代が含まれていた,という可能性も否定できない.
仮説2.ホテルの人が嘘をついた. スタンダードルームは空いていた. けど,日本から来た「金持ち野郎」に,余計にお金を払わせたかった.
仮説3.ホテルの人が嘘をついた. そもそも部屋に差はない. お金が取れそうな人が泊まるとスタンダードがスぺリオールになる.
さて,チェックアウトする時に,カウンターの人(昨日とは別の人)にタクシーを呼んでもらい.念のためB航空発着便の止まるターミナルまではタクシーでどの位かかるか聞いてみた 「だいたい100ペソくらいかしら」 (やっぱ,やられてたよ・・・) 昨日は4倍の値段を払わされたのだ.
タクシーが到着した.僕は,ドライバーが昨夜の「ツアーコンダクター」でないことを確認してから乗り込むと,出発前に 「いくらかかるか」 と聞いた. 「150ペソです」 とドライバーが答える. 「でも,ホテルの人は平均100ペソと言っていたよ」 と僕. しばらくの沈黙の後… 「…わかりました100ペソでOKです」 とドライバーが言った. (勝った!) 最初のドライバー,ホテルのカウンターに連敗した後,ついに僕は勝利を収めたのだ.やっぱりケンタッキーで夕食をとり,ゆっくり寝たのがよかった.
そんなこんなで僕はフィリピンを立ち,無事に日本に帰ってこれた.
ちなみに名古屋についてすぐ,僕はC航空のカウンターへ急いだ. もしかして,名古屋→福岡間の航空券が,支払なしで再予約可能かもしれないと期待したのだ. カウンターに行くと 「変更不可のチケットでも,乗客の過失以外の理由で乗り継ぎ便に乗り遅れた場合は,代替のチケットを用意可能.ただし,遅延した便を運航する航空会社の遅延証明書Delay Certificate from the transportation companyが必要」 と言われた. (A航空の!) マニラに遅れて到着した時,僕は確かに手荷物受取所のカウンターに,A航空の便が遅れたせいで,乗継便に搭乗不可能になったと伝え,カウンターの係りの人がどこかに連絡するのを見た. が,(彼女がどこに連絡して,先方に何と伝えたか)を僕は確認していなかったし,「遅延証明書をくれ」とも言わなかった.第一,そんな知識はなかった. あの時僕は,できるだけ早く日本に帰りたかったので,あわてて乗継便の出発するB航空専用のターミナルのカウンターへと向かった.その後何が起こったかは,前述のとおりである. 僕がいろいろクレームをつけるべき相手は,B航空ではなくA航空だったのだ. 結局,C航空でも,無償でチケットの変更はできず,最初の旅程と同じ便を再予約しても,割引などの特典は何もないと知った僕は,名古屋→熊本間のチケットを購入し,その夜は名古屋で泊まるはめになった. が,僕はとにかく日本に帰ってこれたので,非常な安堵の気持ちに浸っており,昨日ほどの失望は感じることはなかったのである.
************************************************** 以上が,事の顛末である. 文字通りイロイロあったし,チケットを再予約するために,不安な状態で四時間待ち続けた時は正直. 「なんでこんな仕事引き受けたんだろう」 と思ったが,こうやって終わってみると,やっぱり行ってよかったと思う.経験して,少しレベルが上がったと思うのだ. 世界を飛び回る仕事をしている人から見ると,笑っちゃうようなちっぽけなトラブルだと思うが,僕としては,どんなホラーやどんなジェットコースターよりも大きなスリルを味わうことのできた旅だった.
今後の海外出張には,この体験を生かしていきたいと思う.
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